アトランティック・パイロット(AIPP)の資格要件と注意点

2017年3月に発足したアトランティック・イミグレーション・パイロット・プログラム (Atlantic Immigration Pilot Program = AIPP) は、人材不足が続くカナダ東部4州(ニューブランズウィック州、プリンスエドワードアイランド州、ノバスコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州)に、スキルを持つ人材と、留学生としてこれらの州にある公立のカレッジ、大学を卒業した卒業生を引きつけ、その州での永住を奨励し、人材不足を補う目的で開始された、雇用主主体の試験的プログラムです。下線部は後ほど繰り返しますが、このプログラムを検討する上で非常に重要なポイントです。下記より、どのような手順を経てこのプログラムを利用することになるのか、見ていきたいと思います。

 

Step 1 Employer Designation (雇用主認定)

このプログラムはまず、AIPPを利用して外国人を雇用することに関心のある雇用主が、拠点を置く州の州政府から認定 (designation)を受けるための申請をすることから始まります。Designation は州政府の管轄で行われます。なお認定雇用主 (designated employer) のリストは公開されません。

認定雇用主となるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。雇用主の事業がアトランティック・カナダの州で設立され、安定していることは必須条件です。

また、雇用主はプログラムに参加しているSettlement Service Provider にコンタクトし、職場が新しい外国人従業員を迎える準備が出来ていることを証明する必要があります。

そして雇用主は、新従業員(とその家族)の、アトランティック・カナダでの移住初期の新生活をサポートする義務を果たす必要があります。

これらの条件を満たす雇用主が、州政府に認定を受けるための申請を行い、申請が受理されればその雇用主は認定雇用主となり、雇用主が求めるスキルを持つ外国人の採用活動を始めることができます。

認定雇用主はAIPPの3つのプログラムのいずれかに基づいて外国人従業員の採用を行います。

  • Atlantic High-skilled program (AHSP)
  • Atlantic Intermediate-skilled program (AISP)
  • Atlantic International Graduate program (AIGP)
Atlantic High-skilled program Atlantic Intermediate-skilled program Atlantic International Graduate program
就労経験 過去3年以内に最低1年間 (1560時間、フルタイム or パートタイム、継続した1年間でなくても可)の NOC 0/A/B の職種での就労経験 過去3年以内に最低1年間 (1560時間、フルタイム or パートタイム、継続した1年間でなくても可)の NOC 0/A/B/Cの職種での就労経験 就労経験は不問
学歴 高校卒業以上 高校卒業以上 過去1年以内にアトランティック州内にある指定公立校で、最低2年間の degree, diploma, certificateに繋がるプログラムを卒業
ジョブオファー アトランティック州の認定雇用主から、フルタイムで季節労働を除くNOC 0/A/B の職種にて1年以上 アトランティック州の認定雇用主から、フルタイムで季節労働を除くNOC 0/A/B/C の職種にてパーマネント アトランティック州の認定雇用主から、フルタイムで季節労働を除くNOC 0/A/B/C の職種にて1年以上
言語スキル 英語 or フランス語、4スキル全てでCLB4以上 英語 or フランス語、4スキル全てでCLB4以上 英語 or フランス語、4スキル全てでCLB4以上
資金証明 Yes Yes Yes

なお、雇用主はLMIA (Labor Market Impact Assessment)を取得する必要はありません。

Step 2 Applicant Endorsement (申請者の承認)

永住権申請者となる新従業員(以下、申請者)が認定雇用主のジョブオファーを受け入れたら、雇用主はその従業員とDesignated Settlement Service Providerを繋げます。SSPは申請者とその家族の移住先でのニーズのアセスメントを行います。このアセスメントはオンライン、または対面にて、申請者(とその家族一人一人)に対して行われます。この結果により作られるSettlement Planは、申請者(とその家族)のアトランティック・カナダでの新生活への順応を円滑にする助けとなります。

申請者はSettlement Planを認定雇用主に送ります。認定雇用主はSettlement Planと申請者へのジョブオファーとともに、州政府にEndorsement Applicationを送ります。この申請で雇用主は、申請者が上記3つのどのプログラムに該当するかを特定します。

州政府がこの申請をレビューし承認した場合、州政府は申請者にEndorsement Letterを送ります。

 

Step 3 Immigration Application (移民申請)

申請者はEndorsement Letterとその他の必要書類を含めた永住権申請をカナダ政府移民局 (IRCC)に送ります。IRCCはこのプログラムの申請の大多数を6ヶ月以内にプロセスすると告知しています。そして、承認された申請者(とその家族)がアトランティック・カナダに移住します。

雇用主は新移民である申請者(とその家族)の、新しい職場と地域社会への順応をSettlement Service Prividerとともにサポートします。

次に、このプログラムに関する注意点を以下にまとめました。

 

注意点1 雇用主主体のプログラムである!

つまり、カナダへの永住を希望する本人がイニシアチブを取って、移民申請することを目的として作られたプログラムではありません。3種類あるどのプログラムでも雇用主が必須ですし、その雇用主もあらかじめ認定を受けた雇用主でなければなりません。さらにこの雇用主のリストは公開されていません。

永住希望者の立場からすると、「なんて不便なプログラム」と思われるかもしれませんが、雇用主側からすると自分たちが雇うと決めた外国人労働者にだけ、その雇用主が「認定」されていることが分かればいいわけです。人手不足に本当に悩まされている雇用主にとっては、永住権取得だけを目的に応募する不誠実な申請者も避けられますし、このプログラムを利用する価値はありそうです。

 

注意点2 パイロットプログラムである!

このプログラムで使われているPilot とは飛行機の操縦をするパイロットの意味ではなく、「試験的な」という意味を現します。このパイロットプログラムは3年間の試験期間の後、そのパフォーマンスが評価され、残留か廃止が決定されます。

カナダへの永住希望者がこのプログラムを視野に入れて2年間、アトランティック・カナダにあるカレッジに通い、post-graduation work permit (PGWP)で1年の就労経験を積んだ頃、プログラムが廃止になっている可能性は大いにあります。

 

注意点3 偽りでないアトランティック地域への永住の意思が必要である!

各州のPNP申請者にも該当することですが、意図的に比較的移民しやすい田舎の州で永住資格を満たすまで生活し、永住権を申請・取得した後、都市部に移り住むといった、カナダの寛大な移民システムを乱用するケースは後を絶たない状況です。

これはカナダ政府移民局 (IRCC) も各州政府も把握していることですので、申請者のカナダの他の州での長期滞在履歴や、他州でのプライベートやプロフェッショナルな関係、定着により、その州との繋がりが強いと判断された場合、申請が却下される可能性が高くなります。このパイロットプログラムは純粋にアトランティック・カナダに永住を希望する方を対象にしたものであるとお考え下さい。

 

最後に

2017年のこのプログラムにおけるアプリケーション数のキャップ(上限)は2000と設定されていますが、私はこのキャップには到達しないと予想しています。この地方の特徴(人口が少ない、スキル労働力不足)からして、プログラムのパフォーマンスは、申請者が多いほど成功といえるかと思いますが、少し難儀で複雑なプロセスに修正を加えないと応募者自体も少ないまま年の終わりを迎えるのではないでしょうか。

あくまで雇用主主体のプログラムと述べましたが、この地域のカレッジ、大学を卒業後、PGWPを取得してスキルドワークの職歴を積めば、連邦プログラム(Federal Skilled Worker Class, Canadian Experience Class, etc)の申請資格を満たすことも可能です。このような方にとっては、アトランティック・パイロットを「第二の手段」として視野に入れておくことに害はないかと思います。

一時滞在者として実際にこの地域に滞在してみれば、現地の労働市場も把握できるでしょうし、認定雇用主についても情報が得やすいのではないでしょうか(但し、雇用主は認定の事実をインセンティブとした求人広告は載せられないはずです)。

日本人にとってはあまり知られていない魅力もあるアトランティック地方。ニューブランズウィック(NB)州は私がこっそりおすすめしたい地域でもあります。NB州やその他のアトランティック・カナダ各州やその永住プログラムについては、また別の記事で触れたいと思います。